「ガラスの靴」(ファージョン)

プラスアルファのシンデレラ

「ガラスの靴」
(ファージョン/野口百合子訳)
 新潮文庫

彼女は地下室の部屋に
押し込まれ、
朝から晩まで働かされていた。
お城から舞踏会の
招待状が届くが、
彼女は留守番を命じられる。
「まま母」と二人の姉が
お城へ出かけるのを見て
彼女は悲しむ。
彼女は「シンデレラ」と
呼ばれていた…。

シンデレラの物語です。
正確には、おとぎ話のシンデレラに、
英国の女性作家・
エリナー・ファージョンが脚色を施した
物語です。
いくつかのエピソードが加わり、
登場人物が立体的に描かれ、
物語に厚みが加わっています。
誰もが知っている
シンデレラ・ストーリーが、
プラス・アルファの新たな魅力を伴って
読み手の前に立ち現れてくるのです。

プラスアルファのシンデレラ①
魔法使いが大活躍

おとぎ話では一度しか登場しない
魔法使いが、都合3回登場します。
1回目は
薪を拾いに行かされたシンデレラが
森で魔法使いと出会う場面、
2回目は
ご存じ留守番中のシンデレラを
ドレスアップする場面、
3回目は
ガラスの靴の持ち主を探し出すための
王室の要請に
シンデレラが応える場面です
(おとぎ話と違い、
王子様は戸別訪問しない)。
魔法使いとシンデレラの
出会いから描き、魔法使いの存在に
必然性をもたらしています。
また、一度魔法をかけて終わり、
ではなく、しっかりとした
アフター・サーヴィスまで
施しているのです。

プラスアルファのシンデレラ②
明るく快活なシンデレラ

暗く悲しみに沈む
シンデレラではありません。
逆境さえ自分の糧とし、
常に明るく振る舞うシンデレラ。
控えめなだけではなく、
自分の信じる道については
「まま母」に対しても
毅然と振る舞うシンデレラ。
舞踏会では短い時間の中で
積極的に王子様にアプローチする
快活なシンデレラ。
意地悪な二人の姉に対しても
感謝の気持ちを忘れない
人格者のシンデレラ。
惨めさの微塵も感じさせない
ヒロイン像ができあがっています。

プラスアルファのシンデレラ③
個性際立つキャラクター

「まま母」は傲慢で強欲で意地悪で、
でも頭がはげていて
いつもカツラを手放せません。
二人の姉の一方は太っちょ、
もう一方はやせぎす、
両者ともに教養がなく美貌もなく
品もない割には、
自分がいちばん素敵だと
勘違いしています。
そしておとぎ話では
その存在さえ見えなかった父親。
本作品にしっかりと登場するのですが、
妻の尻に敷かれ、
理不尽だと思っても反論すらできず、
眼の前で実の娘が虐待されているのを
見て見ぬふりしかできない情けなさです
(もちろんシンデレラに対しては
深い愛情を注いでいます)。
さらには王子様の側近の
「道化」が物語に絶妙なスパイスとして
作用しています。
個性際立つキャラクターが、
筋書きに何ともいえない奥行きを
もたらしているのです。

これこそ新時代のシンデレラ!
そう思いながら調べてみると
書かれたのは1955年。
65年も昔に書かれた作品なのでした。
中学生に薦めたい本であるとともに、
大人のあなたにもびったりの一冊です。
ぜひご賞味あれ。

(2020.6.17)

RiverOfHopeHKによるPixabayからの画像

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